「相場はニュースではなく、“誰がどのようにポジションを取っているか”で動く」
そう聞いて、ハッとしたことはありませんか?
為替市場では、中央銀行の発言や経済指標の発表に注目が集まりがちですが、実際に価格を動かしているのは、市場参加者たちの“行動”そのものです。
では、その“行動”を数値として客観的に可視化できるレポートがあるとしたら?
それが本記事で解説する「COTレポート(Commitments of Traders Report)」です。
このレポートでは、機関投資家(ヘッジファンドやCTAなど)が
今どの通貨を買っているのか?
ロング(買い)か、ショート(売り)か?
といったポジションの内訳が明らかになります。
さらに、ポジションが極端に偏っているとき=相場の反転の可能性が高まっている
といったヒントも読み取ることができます。
FXトレーダーにとって、これはまさに「大口の裏側を覗き見る手段」。
特にスイング〜中長期トレードを行う方にとっては、
チャートやインジケーターとは違う、“ポジショニングベースの視点”をもたらしてくれます。
本記事では、COTレポートを初めて読む方でも理解できるように
- COTレポートの構造と見方
- 投機筋(Non-Commercial)のポジション動向の読み解き方
- 日本円のCOTチャートを使った具体的な分析実例
- チャート・図解を交えた視覚的理解
を、ステップ・バイ・ステップで丁寧に解説していきます。
市場の“空気感”を、数字で感じ取る力を。
それでは、COT分析の世界へ一緒に踏み出していきましょう。
COTレポートとは?
投機筋の動向を“見える化”する週次レポート
COTレポート(Commitments of Traders Report)とは、
アメリカの商品先物取引委員会(CFTC:Commodity Futures Trading Commission)が、
毎週金曜日(米国時間)に公表しているポジション報告書です。
内容は、主にシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)などの先物市場で、
「誰が」「どれくらい」「買い・売りポジションを持っているか」を分類・集計したものです。
公開タイミングと反映期間
項目 | 内容 |
---|---|
データ基準日 | 毎週火曜日時点のポジション |
公開日 | 毎週金曜日(日本時間:土曜日早朝) |
⏳ 火曜のデータ → 金曜の夜に公開されるため、2~3日のタイムラグがあります。
ただし、中長期的な相場分析では十分に有効です。
COTレポートが公開される理由とは?
本来は、市場の透明性を高めるために作られた制度です。
つまり、「特定の大口が市場を支配していないか?」などの監視目的が背景にあります。
でもこの情報、FXトレーダーにとっては宝の山。
なぜなら、相場の中心プレイヤーである“投機筋”のポジションが明らかになるからです。
COTレポートで分かる3つのこと
- 今、投機筋(ヘッジファンドなど)がどの方向にベットしているか?
- そのポジションは増えているか?減っているか?(勢いの変化)
- 市場参加者の偏りは、過熱していないか?(反転リスクの判断)
COTレポートは“形式”によって分類される
CFTCは、複数の形式でデータを公開しています。
代表的なのが以下の2つ:
形式 | 特徴 | 向いている読者 |
---|---|---|
Legacy形式 | シンプルな3分類(投機筋・実需筋・小口) | 初心者〜中級者向け |
Disaggregated形式 | 資金運用者やレバレッジファンドなど、より細かい分類 | 上級者・コモディティ分析向け |
FXでよく使われるのは「Legacy形式」です。
日本語の解説サイトやチャートサービス(例:Tradingster)もこの形式を採用しており、
まずはLegacy形式をマスターするのが最短ルートです。
📷 Tradingsterでの表示例(Legacy形式)
ここで、実際の日本円先物(JPY/USD)におけるCOTレポート(2025年3月18日版)をご覧ください。

※画像内では「Non-Commercial(投機筋)」「Commercial(実需筋)」「Non-reportable(小口トレーダー)」のロング・ショート・スプレッドなどが表示されています。
次の章では、このレポートの中身をどう読めば良いのか?
各項目の意味と、どの数字に注目すべきかを具体的に解説していきます。
誰のポジションを見るべきか?
各項目の見方とネットポジションの意味
COTレポートには「Non-Commercial(投機筋)」や「Commercial(実需筋)」など、複数のカテゴリーが存在します。
すべてを深掘りする必要はなく、まずは相場を動かす“主役”を正しく見極めることが重要です。
最も注目すべきは「Non-Commercial(投機筋)」
カテゴリ | 説明 | 相場への影響度 |
---|---|---|
Non-Commercial | ヘッジファンド、CTA、プロ投資家など。純粋な利益目的で売買する。 | ◎ 非常に大きい |
Commercial | 企業や金融機関。リスクヘッジのための売買が中心。 | △ 相場の逆を張る傾向あり |
Nonreportable | 小口投資家(報告義務のない規模) | △ 市場に与える影響は限定的 |
投機筋は、短〜中期の相場方向を主導するプレイヤー。
そのため、「彼らがどれくらい買っているのか/売っているのか」をチェックすることが、
トレンド把握の第一歩になります。
各項目の意味(Legacy形式)
Long(ロング)
- 買いポジション(価格が上がると利益)
- 円先物の場合:ロングが多ければ「円高(ドル円は下落)」を狙っている
Short(ショート)
- 売りポジション(価格が下がると利益)
- 円先物でショートが多ければ「円安(ドル円は上昇)」を狙っている
Spreads(スプレッド)
- 買いと売りを同時に持つ戦略的ポジション(主に商品先物系)
- 為替ではあまり重視されないため、FXでは無視してOK
ネットポジションとは?
COTレポート分析の核心が、ネットポジション(Net Position)です。
計算式:
ネットポジション = ロング枚数 − ショート枚数
実例(2025年3月18日時点・日本円先物)
区分 | ロング | ショート | ネットポジション |
---|---|---|---|
投機筋(Non-Commercial) | 164,752枚 | 41,788枚 | +122,964枚(円買い越し) |
📌 これは、機関投資家が大きく“円高”に賭けている状況を意味します。
(ドル円で見れば下落圧力)
チェックポイント:ネットポジションの見方
状況 | 解釈 | トレード判断のヒント |
---|---|---|
ネットポジションが大幅にプラス | 強い円買い意識 | 円高トレンドの可能性 |
ネットポジションが極端に偏っている | 過熱感 → 反転注意 | ポジション解消が始まる兆候かも |
ロングが急減・ショートが急増 | センチメント悪化 | 弱気への転換シグナル |
画像実例:2025年3月18日版COT表(Tradingster)

- Changes欄も併せて見ることで、前週比の動き(資金が流入・流出しているか)も把握可能
- この週はロング −12,038枚、ショート −1,100枚 → 円買い勢の一部がポジションを手仕舞い
次章では、これらの数字を「チャートでどう読むか」を解説していきます。
「数字だけでは分かりづらい…」という方も、次のステップで一気に理解が進みます!
チャートで見るCOT
視覚的に相場の“重心”をつかむ
数字だけでは直感的にわかりづらいCOTレポートですが、
グラフ化されたチャートを使うことで、一気に全体像が見えるようになります。
ここでは、COTデータを視覚的に理解するための3種類のチャートを使いながら、
「どう読み取るか」「どんなトレード判断に役立つか」を解説していきます。
ロング vs. ショート:買い・売りのバランスを見る

このチャートは、「Non-Commercial(投機筋)」「Commercial(実需筋)」「Non-Rept(小口トレーダー)」の
買い(ロング)と売り(ショート)をバーグラフで比較したものです。
見方のポイント:
- 緑:ロング(買い)
- 赤:ショート(売り)
投機筋(左のグラフ)
- 明らかにロング優勢=円買いポジションが多い
- → 相場は円高方向(ドル円は下落傾向)を意識している
実需筋(中央のグラフ)
- 赤(ショート)が優勢=企業のヘッジ売りが多い
- → トレンドに逆らって「保険」をかけているイメージ
小口トレーダー(右のグラフ)
- ロングとショートのバランスが接近
- 市場の方向性に迷いがあるか、情報に出遅れている可能性も
ネットポジションと価格の推移:相場の転換点を捉える

このチャートでは、価格の動きとネットポジションの変化を重ねて表示しています。
読み方のポイント:
- 上段:円先物の価格(Close Price)
- 下段:各カテゴリーのネットポジション
- 水色:投機筋(Non-Commercial)
- 黒:実需筋(Commercial)
- 赤:小口(Non-Rept)
注目ポイント(実例解説)
- 2024年秋〜2025年初頭にかけて、投機筋のネットポジションがマイナスから大幅プラスに転換
- この時期の価格も、底打ちから上昇傾向に転じている
👉 ネットポジションの変化は、トレンド転換の“前兆”となることが多い
ロング・ショートの構成比:主導権の変化を見る


この2つのチャートは、各プレイヤーが持っている買い or 売りの枚数と市場に占める割合を表しています。
ロングポジション(買い)構成の推移
- 投機筋のロング枚数が2024年後半以降に急増
- 下段グラフでは、投機筋のロングシェアが明確に拡大している
→ 円買いトレンドを主導していたのは投機筋だったことがわかる
ショートポジション(売り)構成の推移
- かつては投機筋が主導していたショートが、秋以降は急減
- 実需筋の売りが市場の中心を占めるように変化
→ 「トレンドの主役交代」=相場転換のサインになることも
チャートから読み取るべき“3つの視点”
視点 | 見るチャート | 目的 |
---|---|---|
ポジションの偏り | Long vs. Short | 過熱状態やバランス感覚を把握 |
ポジションの変化 | Net Positions | トレンド継続 or 転換の兆し |
主導権の移り変わり | Long/Short構成比 | 相場を動かしている層の特定 |
数字をグラフで視覚化することで、相場の「空気感」や「圧力の向き」がより立体的に見えてきます。
次章では、こうしたチャートを使ってどのように戦略を立てるか?を実戦的に解説していきます。
実戦での活用
どう使う?どう活かす?COTレポートをトレード戦略に取り入れる方法
ここまでで、COTレポートの構造と読み方、チャートによる視覚的理解を押さえてきました。
では実際に、FXトレードにどう活かすか?という「実戦的な使い方」を見ていきましょう。
基本方針:「COTは相場の“構造”を読む道具」
COTレポートは、「どの方向に動くかをピンポイントで当てるツール」ではありません。
そうではなく、相場全体の“偏り”や“歪み”を捉えるセンサーです。
✔ トレンドの持続力はあるのか?
✔ 反転のリスクは高まっているか?
✔ 主導しているのは誰か?
これらを読み解き、「自分のトレード判断を裏付ける材料」にするのがCOTの本質的な活用法です。
戦略立案のための3ステップ
ステップ①:投機筋のネットポジションを見る
- ロングが増加傾向 → トレンド継続(例:円高進行)
- ロングが過去最高に近い → 過熱 → 反転の警戒感
📊 実例(2025年3月18日時点):
Non-Commercialのロング 164,752枚 / ショート 41,788枚 → ネットロング122,964枚(円買い優勢)
ステップ②:ポジションの変化(Changes欄)を確認する
- 前週比でロングが減っていれば、巻き戻し(利確)の兆し
- 急激なポジション変化があれば、転換点の可能性
📊 実例:
ロング −12,038枚 → 一部の投機筋がポジションを解消している
→ トレンドが一服する可能性も
ステップ③:COTとテクニカル分析を組み合わせる
COTは週1回のデータであり、リアルタイム性はありません。
そこで、移動平均線やMACD、RSIなどのテクニカルと併用することで、
エントリー・エグジットのタイミングを補完できます。
具体的な使い方シナリオ
COTの状態 | チャート状況 | 戦略例 |
---|---|---|
投機筋が大幅ロング増 | 上昇トレンド継続中(MA上向き) | 押し目買いで順張りエントリー |
ロングが極端に増加 | RSIが70超え・MACD横ばい | 過熱警戒 → 半利確、様子見 |
ネットポジションが急減 | ローソク足が包み足・MA反転 | トレンド転換を想定して逆張り構え |
ワンポイント:トレンド転換は「COT→チャート」の順に現れることがある
たとえば、2024年10月頃の実例を見ると:
📈 チャートではまだ価格は低迷していたが、COTではネットポジションが急転換していた
→ 数週間後に価格も反応し、実際にドル円は下落(円高)に
このように、COTの動きが“先に変化する”こともあるため、
「相場の地殻変動をいち早く察知するレーダー」として使えるのです。
COTを使ったトレード判断の強化
COTを使うと、チャートだけでは見えない“相場の重心”が見えてきます。
- 今の相場は過熱しているのか?
- 大口投資家はすでに利確を始めていないか?
- 次に動く主導権は誰が握っているのか?
これらの問いに答えることで、トレード戦略に深みが生まれます。
次章では、ここまでの内容を整理しながら、COTレポートを活用するための“心構え”とポイントをまとめていきます。
まとめ
COTレポートで相場の深層を読む
相場を動かすのは、チャートでもニュースでもなく、
そこに参加している“人間(と資金)”の集合心理です。
COTレポートは、それを数値として客観的に可視化する唯一のツール。
毎週更新されるこのレポートから、大口投資家たちの“本音”を読み取り、
相場の深層構造を立体的に把握することが可能になります。
本記事の要点を振り返り
ポイント | 内容 |
---|---|
COTレポートとは? | CFTCが毎週発表する、先物市場のポジションデータ。FXではLegacy形式が主に用いられる。 |
注目すべき項目 | 投機筋(Non-Commercial)のロング・ショート、およびネットポジションの水準と変化。 |
チャートの活用 | ポジションの推移、構成比、価格との連動をグラフで視覚的に確認することで、トレンドの流れや転換点を捉えやすくなる。 |
実戦での活用法 | COTとテクニカル分析を組み合わせることで、戦略に厚みが出る。特にポジションの“過熱感”は反転リスクとして警戒すべき重要シグナル。 |
COTは“未来を予測する道具”ではない
COTは過去の集計データであり、未来を断言するものではありません。
ですが、「いま市場がどちらを向いているのか」「その傾きが強まっているのか」を読むことで、
価格が動く“土台”を把握する力を手に入れることができます。
トレード力を底上げする“裏側の視点”
- 「チャートだけでは読めない、相場の背景が見える」
- 「市場心理の変化を先取りできる」
- 「反転のリスクを数字で察知できる」
これが、COTレポートを使う最大のメリットです。
最後に:習慣にすると武器になる
COTレポートは週1回更新される、長期目線のトレーダー向けの情報源です。
毎週1回、自分のトレード戦略を見直すルーティンとして活用すれば、
感情ではなく構造に基づいた冷静な判断ができるようになります。