2021年に連載が始まった漫画『FX戦士くるみちゃん』──その第1話を読んで、ひとりのFXトレーダーとしてあまりに言いたいことが多すぎたので、今回はその感想とツッコミを込めたレビューをお届けします。単なる漫画の感想というより、「海外FX・無知な取引・精神崩壊のリアルとは何か」を、読者と一緒に考える内容にしてみました。
第1章:冒頭から精神崩壊|「このお金はダメなんです」の重すぎる開幕
2014年5月、大学生のくるみちゃんが、パソコンモニターの前でうなだれる──
「神様お願いします。このお金はダメなんです……。」 「このお金は絶対溶かせないんです……」
にもかかわらず、評価損益はマイナス256万500円。まさに精神が崩壊寸前。この“絶対溶かせないお金”というフレーズから、読者はこの資金が不正に手にしたものである可能性、あるいは他人のお金である可能性を察してしまう。
ちなみに、くるみちゃんはこの時点で大学2年生・20歳。明らかに等身大の若者にあり得る設定だけに、そのヤバさがリアルに刺さる。
第2章:くるみちゃんの家庭の悲劇──FXが生んだ2000万円の損失と自殺
時はさかのぼり、2008年。 くるみちゃんが中学3年の頃、母親がFXで2000万円を溶かし、自殺してしまう。
しかも、取引の仕方があまりに雑だ。
「上がれ……」とつぶやく母。だがローソク足は無情にも下へ。サポートラインを突き抜け損切り発動。
冷静な読者であればすぐ気づく。「いや、トレンド完全に下じゃん!」と。 チャート分析もせず、誰かの言葉を信じて売買し、結果2000万円を失ってしまう。この他人依存型の投資行動は、現実世界にも確かに存在する。だからこそ、胸が苦しくなる。
そして母の死後──くるみちゃんはこう考える。
「FXで2000万円を簡単に溶かせるということは、逆に2000万円を稼ぐことも簡単なのでは?」
これは非常に危うい認知のゆがみだが、同時に多くの人が一度は通る“勘違い”でもある。
第3章:海外FXデビュー!たった30万円で秒速2万円の利益
大学生になったくるみちゃんは、バイトでためた30万円を元手に、海外FX口座でUSD/JPYをトレード。
2往復の取引で+24.2pips、2万4,200円の利益。実働5分。
国内FXでは最大レバレッジが25倍のため、このロットでは不可能。しかし、よく見ると“海外FX口座”と明記されており、高レバレッジ環境を利用している。
このあたりは、漫画内での描写が正確であり、国内と海外の違いがトレード結果に直結する点をリアルに描いていると評価できる。
第4章:トレードの“短期決戦論”に潜む危険思想
くるみちゃんはこう語る:
「FXは長期的に勝ち続けることは難しい。だから、最初から長期で勝つことは不可能と仮定して短期決戦に持ち込む」 「そして勝ち逃げすることが、FXで勝つための唯一の方法だ」
この考え方には一理あるが、あまりに悲観的・投機的だ。そもそも、“長期で勝てる人は存在する”し、“リスクと向き合いながら継続する”からこそトレーダーとして生き残れる。
本質的には「なぜ勝てないのか」を突き詰めて分析し、改善するプロセスこそが重要。勝ち逃げでは再現性がなく、相場で生きていく力にはならない。
第5章:テクニカル分析ガン無視トレード──そりゃ負けるわ
ここが最大のツッコミどころ。
くるみちゃんは、「FXを勉強した」と言っている割に、サポレジもトレンドも何も考慮せずにエントリーしている。
上昇しているローソク足に対して売りを入れる(=逆張り)
これは初心者が最もハマりやすい典型パターンであり、逆張り=危険な手法であるということを伝えずに描かれると、読者が“それが正解”と誤認してしまう恐れがある。
画力やローソク足のリアルな動きは高評価だが、戦略面の説得力が乏しいのは残念。
第6章:バイトとの比較で実感する“秒給FX”の魅力と罠
「1日分のバイト代(4,600円)をもう稼いだ……」
この描写は非常にリアル。
誰もが一度は、「労働の時給」と「FXの秒給」を比較して、魅力を感じてしまう。その結果、“もっと効率的に稼げる”という幻想にのめり込んでいく。
これはFXの魅力であり、同時に中毒性のある罠でもある。
第7章:この漫画が教えてくれるリアルな警鐘とは?
ここまで読んで思うのは、この漫画が「FXに対する無理解と幻想がもたらす破滅」を強烈に描いているということです。
長期的に勝ち続けるトレーダーは、確かに存在します。
相場を正しく理解し、リスクと向き合えば、FXは一生涯使える技術にもなります。
しかし、くるみちゃんやその母親のように、
- 他人任せでトレードを行い
- テクニカル分析を軽視し
- 「一攫千金」や「秒速で稼ぐ」ことに固執し
- 結果、人生が崩壊していく
──という現実もまた、SNSやネットの裏側に数多く存在します。
この漫画は、そうした“負ける人たち”の心理や行動をリアルに描写している意味で、FX初心者に対する警告書と言えるかもしれません。
そして何よりも、この物語の根底にあるのは、
最終章:くるみちゃんは他人事じゃない──“絶対に溶かせないお金”を抱えた人たちへ
という、普遍的なトレーダーの苦しみと葛藤です。
Xで「このお金は絶対溶かせない」と検索してみると、確かにそれを呟いている人たちがいます。
それを正直に言える人が少ないだけで、実際はもっと多くの人がくるみちゃんと同じ状況にいるのではないかと思わされます。
- 学費や生活費を抱えて
- 誰かのために預かったお金を抱えて
- バイト代を全部つぎ込んで
それでも、トレードという希望にすがる人たちがいる。
この漫画は、単なるエンタメ作品として消費するにはあまりにもリアルすぎて、
だからこそ読者の胸を強くえぐってくるのかもしれません。
もし今、あなたが
「このお金は絶対に溶かせない」
そう思ってトレードしているなら──
一度、ポジションよりも、自分自身の状況と心を見つめ直してみてください。
FXは、人生を変える武器にも、壊す刃にもなり得る世界です。